久米路峡あれこれ

2019年05月29日

長野県民なら誰もが歌えるという「信濃の国」。

勇ましい、リズミカルな曲調と長野の名所や著名人、地形など
よくこんなに上手に詩にまとまるもんだ、と思うほどです。
作詞家、作曲家ってすごいなと唸ってしまいます。

その4番目に曲調がガラリと変わる、憎い演出がありまして
その中の歌詞に、「心して行け 久米路橋」というところがあります。

その久米路橋というのは国道19号線沿いの信州新町にあり、
19号は犀川沿いを走る、くねくね道。
犀川がいかに谷間を通り抜け、険しい河川であったのかが分かります。

「心して行け、久米路橋」とあるように、犀川に架けられている久米路橋は
中でも一番、川が急カーブする谷に架けられていて、その間は狭く、
治水技術が伴わなかったその昔には、何度も氾濫したそうです。

久米路の人柱、とは有名なお話で
昔病気がちな娘のために、貧しかった父親が小豆を盗んで娘に食べさせたところ
娘がつい口をすべらせて小豆ご飯を食べたことを話してしまい、
父親の盗みがばれてしまったのです。
盗人になってしまった父親は、氾濫し、荒れる久米路橋の人柱とされてしまった、ということです。
それ以来、話すことに恐れを感じた娘は口をきかなくなってしまいました。
ある日、キジ狩りの際キジが鳴いたため猟師に撃たれてしまいました。
話さなかった娘も「キジも鳴かずば撃たれまい」、と言ったっきり
それ以来話すことはなくなった、というお話です。

久米路峡あれこれ

なんだか、悲しい切ない昔話。
だけど人柱をたてるほど、荒れる険しい川であったことがわかります。

そして、これは私も知らなかったことなのですが
大正7年。久米路峡で悲惨な事故が発生したのです。

大正7年、5月。一軒の農家から出火した火事に、近隣町村の応援要請をうけて
新町地区などの若い消防手が現地へ駆けつけました。
出動した彼らは、久米路峡に差し掛かたところで橋の架け替え工事中で渡れず
小さな渡し舟にのって、対岸へ向かおうとしました。
折しも、数日来の大雨で犀川は増水しており、小さな舟は瞬時にのまれてしまったというのです。
若い十名の消防手が命を落とした、という事故でした。

節目節目で殉難消防手の慰霊法要をされていたようですが
事故から百年たったということで、一冊の冊子が作られました。
私はこの冊子を手に取り、恥ずかしながら初めてこの事故のことを知りました。

久米路峡あれこれ

その冊子には、当時の写真や信濃毎日新聞が載っており、事故のことが詳しく書かれています。
事故の様子だけでなく、殉難した消防手の村葬のこと、葬儀にあたった寺院、給与金や葬儀費まで資料として載せられています。
当時の惨劇の様子がまざまざと感じられるのです。

19号沿いに立つ源真寺内には慰霊碑が建てられており
遺族や消防局員、消防団員、消防関係者多数が参列し法要が行われたとのことでした。

久米路峡でそんな事故があったなんて。
まさに、心して行け、だなと思うのです。
今でこそ治水工事やダム、トンネルなどができ
整備された河川添いですが
やはり昔は川は氾濫するものであったため、川の付近には人は住めなかった。

話は少しそれますが、そうした河川沿いの環境のため
人は山の峰々を歩くしかなかったのです。
そうした背景から、玉泉寺のように山のてっぺんに建つのも納得です。
峰街道、と呼ばれる山の峰々を行く道ができ、そこに
関所があり、宿場ができ、寺院もあったのです。

そして、久米路の見所をもう一つ。
久米路橋のすぐ脇に、佐久間象山お手植えの楓、勝海舟歌碑(結構立派)もあるのです。
それらの楓も歌碑も、急な山道?を登り、橋よりかなり上に立っています。
そのことからも、当時は、この崖の上が道沿いであったことが伺えます。

久米路峡あれこれ

久米路峡あれこれ

この新町に、佐久間象山や勝海舟が訪れていたなんて、知らなかったわ~~
何気ない渓谷だけど、信濃の国にも出てきて、歴史深い、久米路峡。
改めて、今はしっかりとした久米路橋の上に立つと
人柱になった父親や娘のこと、流されてしまった若い消防手のこと
歴史上の偉人なんかが頭の中を巡って、
何ともノスタルジックな気持ちになるのでした。

今は静かな久米路峡ですが、ぜひ、皆さんも足を運んでみてください。




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Posted by 玉泉寺 at 23:21 | Comments(0) | 暮らし
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